ワークアカデミー35周年記念セミナー 第1部 講演
ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア学長 伊藤羊一氏
未来に向かい、我々はどう生きるべきか?
2017年11月9日、大阪コロナホテルで開催された『ワークアカデミー35周年記念セミナー』。
第1部の幕開けは、ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミアの学長職をはじめ、多方面で人材育成に携わっておられる伊藤羊一氏をお招きし、講演を行っていただきました。
Yahoo!アカデミア学長
伊藤 羊一氏 講演
伊藤 羊一氏 ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア学長/株式会社ウェイウェイ 代表取締役/グロービス経営大学院 客員教授
東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行に入行し、企業金融・事業再生支援ほかに従事。2003年プラス株式会社に転じ、ロジスティクス再編やグループ事業再編などを担当。2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。2015年4月ヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行う。現在は、グロービス経営大学院でリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多方面で講演、企業研修などを積極的に実施。
『スキル』と『マインド』を鍛えることが成果につながる
―「未来に向かい、我々はどう生きるべきか?この設問内の『我々』とは教育に携わるすべての人々です」。
リーダー育成の分野で豊富な実績を持つ伊藤氏による講演は、こんなインパクトの強い言葉から始まった。
ビジネス力の要素を表す「氷山モデル(右記)」というフレームワークを私はよく使います。
社会の中で他者から評価されるのは、水面上にある『action』ですが、水面下にしっかり『スキル』と『マインド』が根を張っていなければ、なかなか成果につながりません。社会で活躍するためには、『スキル』と『マインド』を鍛える→『action』で一歩踏み出す→『スキル』と『マインド』を鍛える…と、このループを何度も何度も繰り返すことが重要。『スキル』がなければ空回りになるし、『マインド』がなければ折れてしまう。特に、ビジネスの世界では日常茶飯的に起こるトラブル対処には、ピラミッドを下支えする『マインド』がとても大切です。『スキル』を身につける場所や研修はたくさんあるのに、この『マインド』を養う場は極めて少ないというのが現実。だから、Yahoo! アカデミアでは、徹底的に『マインド』を養うワークショップをすすめています。
過去~現在~未来という時間軸で自分を見つめ直す
―では、具体的に『マインド』を養うためには、どんな学びが必要なのか?
Yahoo!アカデミアで伊藤氏が実践されているカリキュラムへと話しは進んだ。
私が『マインド』を鍛える第一歩としてやることは、自分を見つめ直す作業です。これには、時間を横軸、幸福度を縦軸にしたライフラインチャートというものを使います。過去の経験が現在の自分をつくっているのだから、自分自身を知るためには過去を振り返る必要があるわけです。私の場合は26歳の時、突然会社に行けなくなって、自己嫌悪のどん底のような時期がありました。結局、周囲の人に助けてもらったんですが、その時、強烈に「人は変われる」ということを実感しました。これが、私の原体験です。そんな過去をライフラインチャートで逐一洗い出し、好き嫌いを含めて自らの価値観を浮き彫りにしていくと、自分は何を大事にしているのか? 自分にとって譲れない思いとは何か? など、自らの価値観が顕在化してくるんですね。100人100通りの価値観があるのは、100人100通りの違う過去の人生を歩んできたから。過去を追体験し、その時の自分の気持ちや行動原理を分析することで、現在の自分自身を正しく知ることができます。
『汝自身を知れ』ー古代ギリシアの格言がマインド育成の本質
―伊藤氏によると、ライフラインチャートによって自分の価値観を顕在化させると同時に、他者との対話が必要という。
内省&対話の重要性を説いていただいた。
デルポイの神殿に刻まれた『汝自身を知れ』という古代ギリシアの格言は、かのソクラテスも行動の標語にしていたそうですが、『マインド』の本質を表した言葉だといえます。『汝自身を知れ』とは内省で、先ほどお話した過去を振り返りながら、自分自身を見つめ直すこと。そして、なかでも対話を意味します。私のワークショップでは、4人1組などのチームに分かれ、1名が自ら作成したライフラインチャートの説明をし、他の3名が質問するフローを繰り返すのですが、他者との対話を通じて、より深く自分を理解できる。この内省&対話の過程が、『マインド』を養ううえで非常に大切。過去~現在の自分を正しく理解することで、本当にやりたいことが明確になり、未来につながる正しい”志”を育むことができるんですね。もし、現在の延長線上にある『未来』を変えたいなら、経験を変える必要がある。だから、Yahoo! アカデミアの合宿でも、過去~現在~未来という時間軸で自分自身を見つめ直すワークショップを、ひたすらにやるわけです。
『lead the self』がリーダーにもっとも必要な要素
―講演も終盤を迎え、話しは企業にとっても最重要課題とされる次世代リーダーの育成に及んだ。果たして、リーダーシップを育む秘策はあるのか?
最近は多くの企業でリーダー育成が切実な課題となっているのでしょうが、そもそもリーダーって何?という根本的な命題を考えた場合、多くの人々を率いて、社会を動かせる人のことで、「lead the people(society)」ということですよね。ただ、大前提として「lead the self」、自分自身を導けないとお話にならない。要するに、先ほどの『汝自身を知れ』というプロセスが、リーダー育成のうえでも大変重要なファクターになってきます。内省&対話を繰り返し、汝を知り続けること。自分の価値観を自覚した上で、”やりたい”と”やるべき”が一致していること。人から与えられるのでなく、自らが心底望んだ信念や志を持っていることなど。自立した『個』の確立なしに、他者や社会は到底、動かせません。汝自身を知り続けることが、リーダーシップにつながるんです。加えて、過去~現在~未来と時間は常に動いているので、1度やれば終わりというわけにもいかない。結局、継続してなんぼ。『スキル』と『マインド』を鍛え→『action』のループを何度も何度も繰り返し、自分の行動規範をある種、自動化させるまで続ける。朝起きたら歯を磨くのと同程度に、自然に習慣化できれば、これは最高に強い。そんな人材を一人でも多く育成することが、私のミッションだと思っています。
人材育成に携わる我々が覚悟をもって、日本の未来をつくるべき
―1年間に100万人の生産人口が失われている日本において、教育関係者はどうすべきか?聴講ひとり一人の胸に響く熱い問いかけで、講演は幕を閉じた。
日本の人口は激減の一途をたどり、この40年間で生産人口は半減。過去5年間で500万人の生産人口が失われています。この数字は実に1年で100万人の労働力が消失していることを表していて、何と2110年には4000万人を切ると言われています。ご存知の通り、人口というのは国力そのものです。ビジネス業界がますますグルーバル化を加速する中で、日本はこのままでいいのでしょうか?冒頭の問いかけでもありますが、我々=教育関係者が果たす役割は、これからの日本においてより一層重大になってくると言わざるをえません。我々ひとり一人が自分自身をleadする覚悟があるのかどうか?その覚悟をもって、何をすべきなのか?日本の未来をつくるのは、人材育成に携わる我々のミッションだという強い気持ちをもって、それぞれのすべきことを真剣に考えて頂けないでしょうか。