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「学び」の現在とワークアカデミーの動き

ワークアカデミー35周年記念セミナー
第2部 パネルディスカッション
社会環境の変化に適応した人材づくりとは?

ワークアカデミー35周年記念セミナー 第2部  パネルディスカッション

2017年11月9日、大阪コロナホテルで開催された『ワークアカデミー35周年記念セミナー』。
第2部の中盤は、各方面で活躍されている人材育成のプロフェッショナルをお招きし、「社会環境の変化に適応した人材育成」をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。

伊藤 羊一氏×張 起權(チャン キグォン)氏×内山 恵津子氏

  • 伊藤 羊一氏ヤフー株式会社 Yahoo! アカデミア学長
  • 張 起權氏大手前大学 総合文化学部 教授
  • 内山 恵津子氏富士通エフ・オー・エム株式会社 地域ビジネス本部 副本部長

現代日本の若者は『社会の中の自分』という自覚が持てない

司会今回のテーマは「社会環境の変化に適応した人材育成」。本日はそのスペシャリストの皆様に集まっていただきました。伊藤先生のお話は先ほどの講演でうかがいましたので、張先生と内山先生、それぞれの活動などを、まずはお聞かせいただけますでしょうか。

張起權氏(以下張氏)私は大学で教鞭を執っていますが、 一方、大学の枠組をこえて、グローバル人材の育成にも携わっています。一例に、グループワークを通してリーダーシップ養成などの取り組みをしていますが、その場合、先ほどの伊藤先生の言葉を借りれば、やはり”マインド”や”発想”が 重要なポイントになります。例えば、隣国の韓国と日本の若者を比較してみると、現在は生活環境にほぼ差はなく、将来について迷っていることも似ていますが、韓国の留学生の場合、少なくとも「何を、なぜ迷っているのか?」しっかり話せる学生が多いです。一方で日本の学生は未来を語れる人がほとんどいません。これはある意味で危機感の欠如、哲学の欠如とも言え、自分が社会の中でどうあるべきか?という発想自体が乏しいのではないでしょうか。私が学生達に選挙に参加することを奨励するのも、『社会の中の自分』を自覚してほしいからなんです。

内山恵津子氏(以下内山氏)少し話がそれるかもしれませんが、実は富士通とワークアカデミーさんは古くからご縁がありまして…。というのも、その昔、富士通から後に大ヒットとなる「オアシス」という商品が登場し、私は女性インストラクターの育成を担当することになりました。そのスクール第1号がワークアカデミーさん。私自身、教え方をワークアカデミーで学んだ経緯があるので、人材育成のスペシャリストと言われると、ちょっと気恥ずかしい感じがしますね(笑)。

企業が新入社員に求めるのは第一にコミュニケーション力

司会テクノロジーの進化を背景に、第4次産業革命という言葉も聞こえてきますが、未来を見据えて、皆さんは期待する人材像を具体的にどうお考えでしょうか?

内山氏私たち企業サイドが求めるのは、第一にコミュニケーション能力です。私は採用面接でアルバイト経験について尋ねるようにしています。なぜならサークル活動では同世代、気の合う人たちだけと付き合えばいいですが、アルバイトは大抵幅広い年齢層の人と接しているはず。そこで、しっかりコミュニケーションがとれているかどうか?この差は予想以上に大きい。入社3ケ月頃、新入社員がメンタル的に微妙になる時期があるんですが、勝手に行き詰まって辞めてしまう人がいます。新入社員を1名採用するのに企業側はたいへんコストをかけているので、私たちは心から「来てくれてありがとう」と思っているんです。だから、自分の困っていること、感じていることをちゃんと伝えて、相談してほしい。フェイス to フェイスで人の話を聞く、自分の思いを伝える、そんな基本的なコミュニケーションが社会ではとても大切です。

伊藤羊一氏(以下伊藤氏)コミュニケーション力はやはり“マインド”から。世代をこえた人とコミュニケーションをとる場合、話したいこと、伝えたいことがあるのかどうかが重要です。“マインド”が育成されていないと、話すモチベーション自体がないということになってしまいます。

張氏日本の学生は与えられたピンポイントの課題には強く、漠然とした内容や総合的な課題に非常に弱い。だからといって、アメリカ型の人材開発がすべて正しいわけではないと考えています。私は日本の若者の持つ謙虚でコツコツと努力する姿勢は素晴らしいと評価しているのですが、その美点を活かしながら、グローバル社会にどう対応させるのか?それが、これからの教育の課題ではないかと思います。

多様な人材が活躍できる真のダイバーシティを目指す時期

司会1億総活躍時代と言われ、今後ますます多様な働き方が求められます。
特に、女性活用の重要性が高まる中、女性が活躍するために何が必要か?
内山先生におうかがいしたいのですが。

内山氏まず周囲や企業が女性の力が必要だとしっかり認識することが大切だと考えています。また、近年はIT技術の進化により、オンライン会議ができたり、サテライトオフィスで仕事ができたりと、多彩な働き方ができる環境が整ってきました。これは、子どもが熱を出して、急に仕事を休まざるをえない場合があるお母さんにとって心強いもの。ただ、企業の意識が変わらなければ、せっかくの環境も活用できません。やはり、周囲のサポート、本人の成長なくして、女性が働き続けるのは難しい。だから、最近提唱されているワークスタイルの変革は、すごくいい提案だと感じています。

伊藤氏そうですね。私たちも真のダイバーシティというものを考えるべき時期にきています。1つの価値観の中だけで会社が進むのは、決して歓迎すべきことではありません。「みんな違って、みんないい」という言葉のように、多様な人々が多様な価値観を持って、切磋琢磨する中でこそ先進的なアイデアが生まれる。LGBT、国籍や年齢など、人材の多様化を推進すべきだと思います。

張氏外国人の雇用という面から申し上げると、日本の企業はもう外国人の受入をためらう時ではないと思います。今後、日本の人口は減る一方で、労働人口の不足は明らかです。日本で働きたい優秀な外国人はたくさんいます。そんな人材を積極活用していただきたいと期待しています。それと同時に外国人留学生の受入にも力を入れてほしい。留学生が増えることは、日本の学生にとっても良い刺激になります。先ほどもお話したように、日本人は各論には強いけれど、総論に弱い。グローバル社会を勝ち抜くためには総論を鍛える必要があります。他国の若者と交わることで、社会性や哲学の重要性を意識するのではないでしょうか?韓国では前大統領の朴槿恵氏への抗議デモに100万人の若者が参加したように、若年層の政治参加、社会意識は健在です。日本社会の外国人や留学生を通して、そのような異国の価値観に触れることが、総論への意識、すなわち”マインド”の強化につながると考えています。

グローバル社会に対応するためにも『マインド』育成が重要

司会2020年に向けた教育改革の中で、文部科学省は学力の3要素を「知識・技能の確実な習得」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」と提唱しています。皆さんは、これからの人材育成に必要な要素をどうお考えでしょうか?

伊藤氏私が大切だと考える3要素は、1に好奇心をもたらす仕組みです。アクティブラーニングなどの学習法が注目されていますが、自ら好奇心を抱き、学ぶモチベーションを創出することが重要。次に問をたてて、答える。これは、張先生もおっしゃっておられましたが、与えられた課題をこなすのではなく、総論を強化する役割もあります。そして、3つ目は社会の中の自分。アナタは社会にどう貢献しますか?ということを、どう意識させるか。そのためにも私は、”マインド”を鍛える必要性をうったえているわけです。

内山氏近頃、女性活躍の講演会などは数も増えてきましたが、本当に女性に活躍してほしいのであれば、男性も働く女性の扱い方を学んで欲しいというのが本音です(笑)。男性も変わってもらわないと、真に女性が活躍できる社会の実現はできません。それと、卒業した後も大学の先生ともっと交流できるシステムがあればいいなと思います。というのも、随分前ですが、私が仕事ですごく辛いことがあった時、よくワークアカデミーの大石会長に愚痴を聞いてもらっていたんです。その時、大石会長から「どうせ1週間たてば、次に別の問題が出てくる。だから今、この問題にナーバスになる必要はない」という言葉をもらって、すごく気分がラクになった経験があります。企業側は話してもいいよ!と精一杯アピールしても、新入社員は話すことが怖いんだと思うんです。例えば、大学を卒業しても気軽に先生に相談に行ける環境があれば、社会に出たばかりの若者にとってのセーフティーネットになるのではないでしょうか。

張氏個人的にはスキルを伸ばすだけではなく、発想を鍛えるような教育に力を入れています。日本では均質的な社会を求める傾向が強いと感じますが、グローバル社会において日本の若者に必要なのは何と言っても総論を思考できる”マインド”と”発想”です。また、留学生のようなマイノリティと接することで、他者の立場を考える大切さを学んで欲しいですね。大学は公務員社会とよく似ていて、とても変革しにくい体制だと思います。しかし、変わる努力は今後も続けていきたい。企業とのタイアップやグループワークなどを通じて、 “マインド”の強い若者を一人でも多く、育成していきたいと思います。

司会パネラーの先生方、大変示唆に富んだ議論をありがとうございました。
教育は人を幸せにするために非常に大切なものです。グローバル社会を勝ち抜く人材育成を見据えて、文部科学省も高大接続などの改革案を策定致しました。
私たち教育業界関係者は、誰よりも早くそれら改革の必要性を自覚し、行動を起こさなければなりません。大学と企業、そして地域など、産学協働による学びの場、出会いの場を今後もより広めていく取り組みを皆様にお願いして、このパネルディスカッションを終わらせていただきます。

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